ひとさじの砂糖とうたかたの日々の泡

一匙の砂糖に似たささやかな幸せや、 取るに足らない日々の泡の記録。

月刊群雛(GunSu)2016年2月号の全作品感想

今年に入ってからお世話になっているNPO法人日本独立作家同盟。

www.allianceindependentauthors.jp

インディーズ作家の活動を様々な面からサポートしてくださっているのですが、
その内の一つに『月刊群雛』の刊行があります。

www.gunsu.jp

私がどういう考えでこの同盟に参加させて頂いたかという事はひとまず後ろに置いて、
大変遅くなったのですが2016年2月号の全作品感想を書きたいと思います。

月刊群雛 (GunSu) 2016年 02月号 ? インディーズ作家と読者を繋げるマガジン ?

はじめに

感想を書くに当たって私が普段読んでいるものについて一応さらっと触れておくと、

  • 物静かで淡々とした新旧純文学
  • 本格派と呼ばれる新旧ミステリ
  • 日本人作家の比較的新しめのSF

などです。
エンタメ、恋愛もの、ラノベあたりにはあまり明るくありません。
レビュー、というよりも感想なので全般的にかなり主観的であり、
その感想にも好みが多分に含まれていると思います。

専業とプロのあいだ / 藤井太洋

<ゲストエッセイ>
専業と兼業。
プロとアマチュア。
この境目や定義、その意味を改めて考えさせられました。
さらに、国が違えばその定義も変わるのだという事もまた改めて。
こういう内情を垣間見る事の出来るエッセイはあまり読んだ事がなかったので、
実に興味深く読ませて頂きました。
最後の一文を噛み締めて、少しずつその資産を増やしていきたいなと思います。

一小路真実は興味がない / 晴海まどか

<連載小説・最終回>
冒頭にあらすじがある親切設計。
のっけからのテンションにいささか面食らいましたがすぐに慣れました。
むしろテンポよく、軽やかな語り口がとても心地いい。
晴海さんご本人も仰られている通り、実に少女漫画的な印象なのですが、
漫画っぽくはなくあくまでも小説。
描写が丁寧にされているせいなんだろうな。
でもくどくないし、押し付けがましくもない。
さらさらさらっと読めてしまう。これはすごい。
子供の頃、ティーンズハートとかでこのシリーズがあったら私夢中で読んでいたと思います。
最終回読んだだけなのに本当に面白かった。これってすごい事だと思います。
ふたりの会話や一人称の地の文で、彼らの関係性や雰囲気がとてもよく解る。
解るから世界にすっと入り込むことが出来る。
タイトルの謎解きがすごく自然な形でされたのも読んでいて気持ち良かったです。
流石の一言。あと間宮くん格好いい。

エピソード・ゼロ / 波野發作

<読切小説>
波野さんが書かれているSF「オルガニゼイション」シリーズのそもそものお話、
「エピソード・ゼロ」。
世界観の説明がいきなり結構続いているので、理解しながら読むのにやや苦労しました。
これは私がこの物語に触れたのが初めてだからかもしれません。
以前の物語を知っているとバックグラウンドの説明的な感じで楽しめるのかも。

ズキューンとバキューンの登場シーンが可愛く、ゼロ皇帝との関係がどこか物悲しくも微笑ましく感じたのでラシッドの判断や考え方、行動に感情移入できなくて悲しみながら読み続ける。
でも確かに彼が考える通り、ズキューンとバキューンには商売なんか出来ないんだろうなぁ……とまで考えたところで、すっかり物語に入り込んでいることを自覚しました。天晴れ。

ここまで入り込むと結構スイスイと読めるもので、ここからは一気に最後まで読んでしまいました。
なるほど、これが「エピソード・ゼロ」なのかと。
いや、面白かった。
続き(というかすでに刊行されている『ヴェニスンの商店』)読みたいです。

余談ですが「ライムスの首都ヴェス」って字の並びだけを見ると、
某勇者RPGのモンスターが脳裏をちらつくのですが気のせいですかね?

こんにちは赤ちゃん / かわせひろし

<読切小説>
もうこれは単純明快に面白かった!
SFショートショート好きなので、こういうお話好きです。
かわせさんご本人も作品紹介で仰られていましたが、ちょっと藤子・F・不二雄先生っぽい。

マリコの愛情が深ければ深いほど、思いが強ければ強いほど、悲しいし、皮肉だし、無情。
強いて言うならば、次の場面(リセット)に至るまでの過程(描写)が少しあっさりかなぁと思いました。
SF読むの好きなのでこれからも楽しみにしています。

どんな情報も鵜呑みにしないこと / 鷹野凌

<編集長コラム>
情報って本当に簡単に手に入れられるようになりましたよね。
検索ボックスに単語を放り込んでボタンを押せば、大抵のものは出てきます。
何かを書こうと思ったら専門の辞書を引いたり図書館に通わないといけなかった頃から考えれば夢のような進歩ですが、いいことばかりでは勿論ありません。
特にインターネットのソーシャルメディアでの情報は玉石混合。
TwitterFacebookは特に拡散(共有)のハードルが低いので、
自分で気をつけているつもりでもふと不安になることがあります。

ボタンを押す前に一度自分で考える。
そしてもし間違えてしまった時は誠意を持った対応をする。

自分も何かを発信する側の人間として、常に心に留めておきたいと思いました。

Gold 捧げ物集 / 青海玻洞瑠鯉

<詩>
タイトルに名前がある方々への感想と評の入り混じった文章。
詩、というよりも散文に近いような印象を受けました。
人名を冒頭に表記するとより“彼らに対する個人的感想”感が増すので、
伏せておいた方が良かったかなぁと思います。

珈琲 / 東方健太郎

<読切小説>
なんとなくふわっとした、珈琲をモチーフに綴られた物語。
雰囲気は一番好きです。
でも一番好きだからこそ、結構細かなところが色々と気になりました。

最も気になったのは図書館のシーン。
何故「ひと回りくらいは年下に見える知らない女性」に主人公が声をかけたのかが解らない。
昨夜自販機の側にいた女性なのかと思ったけどそうでもない。
不思議に思っていると突然図書館の本の貸し出しの会話になるのですが、
その会話自体も必要なのか解らない。
で、帰ってきたところで「私の浮気性は」と言っているので、
あぁ本当に下心だけで女性に声をかけたんだな、と解るんだけど、
そしたら図書館で「私は何をしているのだろう」と書いてあることに違和感が出てくる。
自分自身の性質に呆れているのかもしれないけれど、読み手が補完しないといけない部分が多すぎて、登場人物の誰もかれもがふわふわしている印象。
あと「……」の多用も少し気になりました。

享楽的な女性と浮気性の自分が珈琲を介してふわっと繋がってる。
珈琲は苦かったり甘かったり、よそよそしかったり温かかったりで、
まぁ僕らの関係ってそういうもんでしょ。

って感じのことが言いたいんじゃないかなって勝手に想像していて、
その雰囲気は本当にとても好きなんだけれど、
読み手としてとてももやもやしてしまうので、
場面なり感情なりをもう少し描写してもらえたらなと思いました。

もう一つのアスタリスク / 米田淳一

<読切小説>
2時間半ぐらいのアニメーション映画で描いて欲しいボリューム。
サマーウォーズ』みたいな感じで。
多分描写を挟むと文字数的に難しいせいもあると思うのですが、折角個性豊かな登場人物が沢山いるのに長文の会話だけでほぼ物語が進んでいくのは、やっぱり少しもったいないように思います。
アニメーションっぽく感じたのもキャラクターの性質ばかりではなく、セリフの分量が多いからかな?とも。
物語に対する熱はすごく感じましたし、そこはすごく好感が持てました。
スケールが世界を巻き込んでいてとても壮大なので、もっと思いっきり書き切って一冊の本として出して欲しいです。
出たらちゃんと買って読みます。

夏のかけら / 幸田玲

<連載小説・最終回>
最終回だけしか読んでいないので、最初から最後まで通して読んでいた方とは感じ方がまったく違うかもしれません。

一番強く感じたのは、簡単でも、一言でもいいので、連載物にはやっぱりあらすじがあったほうが有り難いなぁという事です。
特にこの作品は会話を主体に話が進んでいくので、最終回だけ読むとストーリーを把握するのが難しかったです。
また『何で今その話するの?』っていう感じで、会話の内容が結構ぽんぽんとあちこち行ったり来たりしています。
確かに日常生活の会話ってそんな感じであって、リアルといえばリアルなんですが、読み手からするとちょっと置いてけぼりになりがちかなぁと思います。
座談会とかの会話を生で書き起こしたもののような、その場にいた人じゃないと話の展開が理解しがたいような感じ、と言えば良いのか。

そして本当に綾香の気持ちが理解しがたい。
レストランバーでいい雰囲気で、
彼女自身「バリでこんな風になるなんて」と言ってるのに。
そして好きな男性の話をしていたのに突然父親の話になる。
(勿論、その好きな男性と父親に共通点があることは理解出来るのですが、
その会話の運びというか言葉を持ち出すタイミングみたいなものが少し解り難く感じる)
父親の話をしている綾香に突然また達也が好きな男性の話を振る。
“今”、“誰が”、“何の話をしているのか”がわかりにくい。
だから、登場人物の感情の流れについていきにくい。

温度が高くてじっとりとしたバリの雰囲気と、
閉塞的な男女の関係って親和性が高いと思うので、
そういう雰囲気はすごく好きです。

雪解鬼神図 / 神谷依緒

<表紙イラスト>
雪と鬼、って心躍るモチーフです。
イケメン。そして鬼子ちゃん可愛い。
2015年9月号の月刊群雛の表紙の男性と繋がりがあるとのことで、
そういうリンク大好きなのでとてもいいなぁと思いました。
神谷さんの絵とても好みです。(副島さんの絵、私も好きです!)

おわりに

2016年2月号の感想は以上です。
もし、偉そうに感じられた方や気分を害された方がいらっしゃったら、
申し訳ありません。
特に好きなジャンルや好きな雰囲気の方の作品には、言葉が多くなっています。

折角同盟という同じコミュニティに属しているからには、
切磋琢磨させて頂きたいというのが私が一番に願っていることです。
それにはいいところは勿論の事、読み手として気になったところを共有することが重要ではないかと考えています。
「こういう風に感じる人もいるよ!」くらいに受け取って頂ければ幸いです。

私自身、群雛を読んで、こうして感想を書くことでとてもたくさんのことを学ばせて頂きました。
投稿された全ての方、そして編集部の方々皆様にお礼を申し上げます。
ありがとうございました!
面白かった!